現場最前線の今 高齢化していく親に代わる生活支援の仕組みが必要

現場最前線の今 高齢化していく親に代わる生活支援の仕組みが必要

 今回は、自閉症の人たちの地域生活を支える親の高齢化を中心に検討する。
 2006年に施行された「障害者自立支援法」(現在の「障害者総合支援法」)を契機に、入所施設の新設はほとんどなくなり、国の施策は在宅・グループホームを中心とした地域生活支援の方向に進んでいる。現場レベルの言い方をすれば、自閉症や知的障害の人たちについても、いずれは入所施設に入るというこれまでの前提から、「人生全般にわたって地域生活を続ける時代」になったのである。
 このこと自体は、地域での普通の暮らしを目指すノーマライゼーションの理念に沿った施策として歓迎したい。しかしながら実態は、(特に重度の)自閉症や知的障害の人たちの地域生活を支える公的サービスが十分ではないため、家族、特に親への過度な負担が長期化する状況を招いている。
 筆者の身近でも、不眠や破壊行動といった行動障害の激しい自閉症の成人を抱える家族が疲労困憊し、客観的に見て「もはや家族と一緒に暮らすのは無理だろう」という事案がある。そうであっても「どこの施設も定員の空きがなく、すぐには入所できない」という結果で、施設入所待機のまま生活を続けている。そのような場合、可能な限りガイドヘルプやショートステイといった在宅サービスを導入して、同居する家族の負担を軽減するのだが、家族にも当人にも望ましい生活スタイルとは言えず、それが長期にわたって続けざるを得ないことに制度上の不備を思うものである。
 家から地域にある福祉サービス事業所に通う自閉症の人も多いが、当人が自力で通所できないと、毎日親が付き添って送迎することになる。福祉サービス事業所が提供する送迎車を利用できる場合もあるが、通所者の送迎が事業所の実施義務にはなっていないので、「通所にあたっては親御さんが送迎してください」と事業所側から言われる場合も多い。
 また、ガイドヘルプは障害のある人の余暇や社会的な活動への移動支援が基本で、制度上、毎日通う事業所の通所には使えないことになっている。そういうことで、親が事業所まで自家用車で送迎したり、電車やバスを乗り継いで付き添ってきたりすることになるが、当人が30~40代になるころには親が60代を超えてくるわけで、「いつまで送迎できるか心配だ」という高齢の親御さんの声を聞くことになる。
 自閉症や知的障害の人たちが、人生全般にわたって地域で安定して暮らしていくためには、先に高齢化していく親に代わる地域生活支援の仕組みが求められる。しかし現状では、それらはまだケースバイケースの対応として模索段階にあると言える。施設入所というオプションが限定的なものになった以上、在宅生活の維持あるいはグループホームの充実といった、「施設に代わる生活の拠点」をハード面から整備していかなければならない。
 成人になった自閉症や知的障害の人たちの身の回りの世話や金銭管理なども、実は、親が長く携わっている領域である。家族と一緒に比較的穏やかに暮らしている方でも、そういう生活上の細々としたサポートは親が担っていることが多い。親の高齢により、親自体が介護を受けたり、通院や入院を繰り返すことも増えていく。そういう視点から、「親に代わる日常生活サポート」をソフト面から整備していく必要がある。
 「成年後見制度」や横浜市が実施している「障害者自立生活アシスタント」の普及が求められる。横浜市の「自立生活アシスタント」は、主に一人暮らしを送る障害者の身近な相談者であり、日常生活上のアドバイスやヘルパーの手配などを引き受けてくれている。国もまた障害者総合支援法の改正に伴い、横浜市の自立生活アシスタントを参考に、新たに「自立生活援助」を制度化するとのことで、今後、この制度がどのように機能していくか注目したい。
 公的なサービスは、広く適用できるが、最小限の支援にとどまりがちだ。高齢になっていく一人ひとりの自閉症や知的障害の人たちの生活を支えるには、共助・自助の仕組みも重要になる。NPOや社会福祉協議会、職場や地元住民など、より地域に近い市民活動に期待したい。自治体によっては、在宅高齢者の見守りや配食サービスなどが充実してきている。これらを、自閉症や知的障害の人にも活用できないだろうか。高齢化によって、親だけが障害のある人の面倒を見ればいいというこれまでの風潮は確実に変わっていく。そこに、新たな地域生活支援の仕組みを描いていければと思う。

特定非営利活動法人 自閉症eサービス理事長 中山清司

■出典:シルバー産業新聞